本来外国の神である「媽祖(まそ)」を、日本の伝統芸能である能楽に⁉︎
観世流シテ方片山九郎右衛門氏からの超難題。海外に発信できるメッセージとしてのお能を。
もちろんそう簡単な仕事ではありませんが、苦しみながら、原作ストーリー&台本、書き上げました。
上演は22年4月2日に決定!
ぜひ応援してくださいね。
新作能「媽祖」 アジアから世界へ 平和の祈り
令和4年4月公演決定
片山九郎右衛門 企画・指揮
玉岡かおる 原作
新作能「媽祖」製作委員会
公演詳細は決定次第またお知らせします。
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未知のウイルスと遭遇し、世界が一変してから早や一年。まだ過去として片付けることはできないが、人が知恵を絞ってできるだけの前進を試みてきたのは確かな事実だ。
思い出すのは桜がはらはらと散る去年の四月のこと。観光客の姿が消え、がらんとした京都にある自宅で自粛期間を過ごしている能楽師K氏から連絡をもらった。ふだんは公演で全国を駆け回り家でゆっくりする暇もない人が、すべての公演が中止となり、他にすることもなく自転車でぶらぶらと京都の町をめぐっては物を思っていたらしい。
「新しい創作能をやろうと思うんです。新作を書いてもらえませんか」
物思いの結果は地熱のように内から沸き上がる創造への熱望だった。
室町時代に始める能楽の、いわば先人たちの遺産をいえる古典を大切に守り継承してきた彼にとって、閉塞感を打ち破るには既成の作品では飽き足らなかったのかもしれない。
「で、どんな能を創ります?」
能を書くどころか鑑賞の経験もさして多くない私なのに、ふだん穏やかな彼のただならぬ決意が伝わり、思わず訊いた。もう最初からやる気とみられてもしかたない。
彼が選んだテーマは『媽祖(まそ)』。華僑の人々が最高神と讃える道教における海の女神、航海の女神だ。
「え?中国の、女神様?」
疫病封じにアマビエが流行したように、また新手の神様?と思いきや、そうではなかった。海外にも容易に行き来出来ない時代だからこそ、近隣の国々とも共有できる普遍のものを作りたいのだ、と彼は言う。
なるほど、世界中どこの国にも疫病との戦いはあり、どんな民族にもよりどころとなる神仏はある。日本でも、薬師如来を始め牛頭天皇や蘇民将来など神仏が病に苦しむ人々の心を救った説話は数限りない。神や仏が常に人の近くにあって、弱く不安な胸の内をささえた歴史はまぎれもないのだ。我々の先祖は、古来、大陸から伝わった神仏を起用に取り入れ融和させてきたが、さて現代、そんな心を今に蘇らせるには?そう、芸術や文化の力かもしれない。
やりましょう、そう答えていた。
この災難が終わろうと続こうと、何か掴んで立ち上がる。そんな証にしたいから、ともかく自分にできることで一歩を前に。皆様に新作能をお披露目するにはあと少しだが、災禍はこのようにして人を前へと進ませるものらしい。
「ないおん」3月号 玉岡かおる
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